ロバのおうじ グリム童話より
「金、銀、宝石ならわしはもう欲しいだけ持っておる」と豪語する父。「ドレスやぼうしやリボンなら あたくしもう欲しいだけ持っております」と人を見下す母。こんな夫婦の子どもとして生まれてきてしまったら、そりゃあ不幸でしょうとも。ロバの姿で生まれてきた王子の悩みはそこにあるのです。
財産を勘定することと着飾ることにのみ執着する両親に愛想を尽かし、王子は魂の分身ともいえるリュートを背負って、生まれた城をあとにします。長い長いあてもない旅の途中、王子のリュート弾きとしての腕は研ぎ澄まされていきます。家出したときは確かに子どもロバだったのに、いつのまにか若者ロバになっている、そんな時間の経過も、絵で表現されています。
ある日、王子は、とある城の前で立ち止まります。王様に面会を申し込む不審人物(ロバだし)に、門番は笑って取り合ってくれません。ところが、王子の奏でるリュートの音色に感動し、なんと、王様に取り次いでくれます。
あとはトントン拍子に王子の運命は開かれていきます。美しく気立てのいいお姫様が登場し、王子はロバではなく本当の王子の姿になって、お姫様と結ばれます。定石通りとはいえ、リュートを弾くことでお姫様の心を虜にしていく過程は、昔話の域を超えた、心憎いばかりの綿密な場面構成になっています。ことばも美しく、読み応えがあります。
「いつの日か、こんなすてきな出会いがあるのかも…」と思っているかどうかは知りませんが、3人の娘はみなこの本が大好きです。
M・ジーン・クレイグ 再話 バーバラ・クーニー 絵 もきかずこ 訳 ほるぷ出版 1,311円
(2003年 ’平成15年’ 9月8日 80回 杉原由美子)