マーシィとおとうさん
月を通り抜けた先に、「わちふぃーるど」という、地球そっくりの小惑星があります。そこでは、動物たちが立って歩き、おしゃべりをし、仕事もすればかけ事もします。うさぎのマーシィのお母さんは、そんなわちふぃーるどでも評判の働き者。仕立物に洗濯物に、朝から晩まで働きづめです。というのも、お父さんという人がいたってのんき者で、まじめに働こうとしないからです。うさん臭い狐たちとギャンブルざんまいの毎日です。
そんなお父さんですが、娘のマーシィはかわいくてなりません。どこへ行くにも連れ歩き、調子のいい空約束をくり返します。 今も、「ひと山当ててみせるから」と、金鉱探しに出たきり、なしのつぶてです。
残されたマーシィは、けなげにも幼い妹たちの世話をして、しっかりお母さんを助けます。
「いい子だったからお誕生日にはなんでも好きなものを買ってあげる」 お母さんに言われたマーシィの答えは、
「お父さん」
そ、そんな、と思いますが、子どもとはそういうものかもしれません。お母さんもお母さんで、マーシィのため、行方知れずのお父さんの捜索願を出してきます。誕生日にはきっとお父さんに会えると信じているマーシィですが、はてさて……。
若い人に人気のダヤンコレクションの1冊です。30冊近いシリーズの中でも、特にこの本は、登場人物が妙にリアルでおもしろいと思っています。
そういえば、うちにもマーシィにそっくりの娘がいました。仕事にかまけて帰りの遅い親を当てにせず、小さな妹のおしめを替え、ミルクを調合して飲ませてくれていました。ある日その子が、この「マーシィとおとうさん」のお話をすらすらと暗唱し始めたではありませんか。「このお話大好き」と言って……。正直、ドキッとしました。ごめんね、せめて私も口約束をしておきましょうか。
「お嫁に行く日が来たならば、魔王の城でもくれてやろ」
池田あきこ 作・絵 ほるぷ出版 1,050円 (2004年 ’平成16年’ 4月21日 88回 杉原由美子)