雨、あめ

 表紙をめくると、見返しの部分で早くも子どもが2人遊んでいます。庭の砂場で遊んでいるのです。初夏の日差しを浴びて気持ち良さそうに。次へ進むと、1人が手のひらを空に向けています。「あ、雨だ」とつぶやいているのでしょう。気をつけて見開きページ全体を見渡すと、左側の画面には細い雨の筋が描かれています。雨が近づいているのです。次のページでは、玄関からお母さんが声をかけています。おうちに入りなさい」と。ここまでがプロローグです。家の中に駆け込んだ子どもたちに、お母さんは、レインコートにレインハット、長靴とかさを渡します。そして、再び外へ送り出します。さあ、ここから絵本も本題に入っていくのです。
 子どもたちは、雨の庭、雨の道路、雨の川、雨の公園と次々に場所を変えて遊びます。絵本の画面もコマ割になって、水たまりや水かさの増した小川をじゃぶじゃぶ歩き回る子どもたちを追跡します。雨が苦手でひっそりかくれている動物たちもたくさん描かれています。
 やがて雨は土砂降りとなり、風も出てきたようすです。子どもたちは家に向かって一目散。待ち構えていたお母さんは、2人をお風呂に入れ、あたたかい洋服に着替えさせます。雨は明け方まで降って、朝にはあがります。目覚めた子どもたちは、きのうより一層日差しの明るくなった庭に出て遊びます。裏見返しは表見返しと同じ場所を描いているのですが、よーく見ると、前日にはなかった植物がにょきにょきと……。
 この絵本には、タイトル以外の文字は書いてありません。絵だけで、子どもたちのわくわく気分を伝えています。また、お父さんがたったひとコマ登場するのですが、それによって、安定した家族関係を感じ取ることができます。いっぱい遊んでゆっくり休む、子どもにとって理想的な1日が描かれているのです。言い換えれば、いい絵本の典型がここにあると思います。子どもが安心して帰っていける家庭。思えば、私たち大人は、それを実現するのに四苦八苦しているのです。

ピーター・スピアー 作 評論社 1,470円  (2004年 ’平成16年’ 6月23日 90回 杉原由美子)

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