ぼくは少年鉄道員
この本の取材地は、ドイツです。ベルリン近郊のヴュールハイデ公園(ちょうど富山県小杉町の太閤山ランドくらいの広さです)には、鉄道線路が敷いてあって、そこを走るSLや電車を動かしているのは、なんと、少年少女たちなのです。それらの列車は模型ではありません。小型ながら、ほんとうに人が切符を買って乗っている列車なのです。公園内を全長8㌔ほどで1周し、駅は七つあります。もちろん、信号や踏切があり、ポイントの切り替え、切符の販売といった重要な仕事も少年たちがやります。
鉄道が通っている公園というだけでも珍しいですが、少年少女が動かしているなんて驚きです。 もともとは砂利運搬用の列車を走らせるためにできた線路で、大戦後、子どもたちに社会参加の場を提供しようと、このような形になりました。東ドイツの施設だったので、東西統一の際には廃止されそうになりました。が、どこの国にも鉄道ファンはたくさんいるようで、廃止の危機を乗り越えて、ドイツには他にも何か所か、子どもが参加できる公園鉄道があるのです。うらやましいような話です。
この本では、実際にこの鉄道で活動しているクラウス少年の日常を追っています。クラウス君は中学生ですから、平日は学校へ行っています。休みの日に公園鉄道で勤務につくのです。お姉さんのステファニーは、公園鉄道の先輩であり、大人になった今は、ドイツ鉄道で機関士として働いています。
鉄道や駅というものには、ふしぎな魅力、あこがれを抱かせる雰囲気があります。例えば、 富山駅のホームにサンダーバードが滑り込んで来る瞬間、ってゾクゾクしませんか。たとえ自分が乗るのでないとしても。少なくともわたしにとっては憬れの対象です。ですから、先日のJR福知山線ような事故はほんとうに悲しく、悔しいです。 日本の鉄道は世界一安全で正確だと思っていましたから。わたしたちの国にも、みんなが安心して乗れる鉄道がよみがえると信じています。
西森聡 写真・文 福音館書店 700円 (2005年 ’平成17年’ 5月18日 100回 杉原由美子)