赤い目のドラゴン
4月のある朝、わたしと弟がぶた小屋へ行くと、かあさんぶたがこぶたを10匹、そして、ドラゴンを1匹産んでいました。なぜだか分かりませんが、赤い目をした、緑色のドラゴンがうちに来たのです。
ドラゴンの赤ちゃんは、おっぱいを飲むたびに、かあさんぶたのおっぱいにかみ付くので、 とうとうおっぱいをもらえなくなってしまいました。そこで、わたしと弟は、ドラゴンが欲しがりそうなものを毎日運んで食べさせてやったのです。
こぶたたちに、自分の食べ物を取られそうになると、怒ってかみつくほど気の強いドラゴンでしたが、ときには呼んでも振り向きもせず、すねていることがありました。怒った弟が「もう、おまえには何もあげないよ」と言うと、とたんにドラゴンは静かに泣き始めるのでした……。
このような一人称形式でお話は進みます。10歳くらいの少女とその弟、なぜか突然にやってきたドラゴンの子ども。舞台はぶた小屋と、姉弟の寝室、それと家の周りの牧草地。たったそれだけの道具立てです。そして時間の経過もきっかり半年。
「まいとし10月2日になると、わたしはドラゴンといっしょにすごした子どものころを思い出します。なぜなら、その日、ドラゴンがいなくなったからです」と、ドラゴンとの突然の別れを予告してから、お話は静かに終わりになります。劇的な展開はありません。けれども、読み終えたとき、胸の奥がきゅんとなって、閉じた本を抱きしめたくなるような気持ちになります。
よく版元在庫切れになる本です。どうかお手元に置いてやって下さいますように。
リンドグレーン 作 ヴィークランド 絵 ヤンソン由実子 訳 岩波書店 1,470円
(2005年 ’平成17年’ 10月19日 105回 杉原由美子)