ゆかいなかえる

 やっと暖かくなったと思ったら、早くも初夏の陽気です。田んぼにはあっという間に水が引かれ、植えられたばかりの苗が頼りなさげに風に揺れています。今は静かなたんぼですが、これから気温が上がるにつれて、かえるの合唱団が大編成で歌うようになります。
 今回の絵本は、かえるの暮らしぶりを描いたものです。水草のふちに浮かぶかえるの卵。 卵がかえっておたまじゃくしになるかな、と思ったら、大方の卵は魚に食べられて、残ったのはたったの4個。4個の卵は無事おたまじゃくしに、そしてかえるへと成長します。かえるになっても、のんきに暮らせるわけではありません。自分たちをねらっている鳥や爬虫類から、うまく隠れなければ。そしてえさも探して、いっぱい遊んで、歌も上手にならないと。4匹のかえるは、3シーズンを楽しくたくましく生き抜いて冬を迎え、土にもぐっていきます。では、春までおやすみなさい……。
 使っている色は、水色、緑、黒のみ。日本画を思わせる流麗なタッチが、生き物たちに躍動感を与えています。水の中を泳ぎ回っているような心地よさが全編にあふれています。飾り気のないストーリーも、かえって子どもたちにはウケます。絵本を読んで、いえ、読まなくても、身近なところでおたまじゃくしの観察ができたらいいのですが。ほら足が出た手が出たと、みるみるうちに成長していく動物は、ちょっと他にはいませんから。
 はるか昔、田んぼの真ん中の高校へわざわざ町から入学してきたS君は、通学時間を惜しんで下宿したのはいいけれど、「カエルの鳴き声がうるさくて勉強できないよ」と悩んでいました。あら、お気の毒。夜はカエルの、昼はセミの鳴き声、これがなきゃ富山の夏はもの足りないですよね。

ジュリエット・キープス 文・絵 石井桃子 訳 福音館書店 945円
(2006年 ’平成18年’ 5月24日 111回 杉原由美子)

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