あみださま大修理
私たちは、ごく幼いころから、仏壇やお墓の前では「ナムアミダブツ」とつぶやきながら手を合わせていました。アミダブツとは阿弥陀様のこと、近所のお寺にもきっと阿弥陀様がおいでだと思いますが、普段はなかなか拝む機会がありません。
この絵本は、江戸時代初期に作られた仏像の解体修理の一部始終を追っています。埼玉県のあるお寺で、傷みや汚れが目立つようになった阿弥陀様を修理に出すことになりました。引き受けたのは、古美術品専門の製作・修理会社です。
おおまかに分解して真綿にそっとくるんで運び出すことから始まり、さらに細かい部分に分けてそれぞれの手当ての方針を決めていきます。使われた素材、塗料、組み立て方を慎重に調べて、できるだけ原型に近いものにします。足りない部品は新しく作り直し、古びた風合いを出すための色づけも行います。
専門家の方には叱られそうですが、作業そのものはプラモデル作りによく似ています。阿弥陀様の頭部をそっと空けてみたら、中には、300年余り前の巻物が入っていました。巻物には、千回もの「南無阿弥陀仏」の文字と共に、仏像を寄進した人の名と、寄進した年月が書かれていました。まるでタイムカプセルです。
それではとばかり、今度は、修理を施した日付と仕事に係わった人の名を記した和紙を入れておきます。いつの日か読んでくれる人が現れることでしょう。こうして仏像の組み立ては完了しました。
連休中に法事がありました。父の十三回忌でした。父祖の土地に執着のなかった父は、自分の葬儀や法事にも関心がありませんでした。亡くなった夜、駆け付けてお経をあげてくれたのは、私の友人で、法事を営んだのも彼の自宅であるお寺でした。最近新築したそのお寺の本堂は、モダンなフローリングの床。法事のない日は、近所の子どもたちがそこで卓球台を広げて遊ぶらしい。阿弥陀様の前のスクリーンを下ろすと小さな映画館にもなる設計。なんとも明るく楽しい雰囲気のお寺でした。おかげで、阿弥陀様というのは、人と人が出会い、癒される場を提供してくださっているのだということに気がつきました。もっと気軽に、阿弥陀様に会いに行きましょう。
宮村田鶴子 文 牧野良幸 絵 福音館書店 700円 (2007年 ’平成19年’ 5月16日 122回 杉原由美子)