旅館 すずめや
スズメの数が減っているそうです。半世紀前の10分の1になった、というデータさえあります。そう言われてみると、うるさいくらいだった朝のスズメのさえずりが前ほどではなくなったような。電線にずらりと並んだおなじみの風景もこのごろ見ていないし。環境の急激な変化で、えさの確保が難しくなってきているらしいのです。もしも「聞き耳ずきん」があったら、こう言っているのが聞こえるかもしれません。
「このごろ子どもの数が減っているんだって」
「だって産んでも育てるのがたいへんなんだもの」
「そうよ、自分の食べ物を見つけるのでせいいっぱいだわ」
なんとまあ、私たち人間とそっくりな状況ですねえ。
そこで、がんばっているスズメさんの登場です。この絵本のスズメは、旅館の女将をしています。昔ながらの、温泉の湧き出ている山のお宿です。着くと早々にお茶と和菓子のおもてなし。建物も純和風の造りで、縁側から庭に下りて雪遊びもできます。寒いのが苦手なら、広間に集まってお手玉、おはじき、折り紙などはいかがでしょう。遊び疲れたら露天風呂で体をほぐし、女将心づくしの夕飯をいただきます。食材はもとより、お碗や箸置きも様々な意匠のものを取り揃えて、お客の好みに応えてくれます。
ほのぼのとした温泉情緒が伝わる絵本です。温かさの秘密は、丹念に切り抜いた切り絵に、柔らかな彩色が施してあることでしょう。そこには、日本古来の建築様式や調度品が描き込まれ、着物や寝具、食器の文様には、私たちがなじんできた和風のデザインがたっぷりと使われています。この模様、好きだったなあ、という発見が必ずあると思います。
スズメは、人間が生活しているところに生きる鳥だそうです。何かの事情で廃村になった村では、人間だけでなく、スズメの姿も消えてしまうそうです。スズメが増えてくるときは、人間の子どもも増えてくるに違いありません。
雨宮尚子 作 白泉社 1,365円 (2009年 ’平成21年’ 4月22日 143回 杉原由美子)