絵で読む 広島の原爆
子どものころ、「昔、戦争があった」と思っていました。「伯父さんは戦死した」と聞かされていました。高校生になったころ、「父母は今の私くらいのとき終戦を迎えた」と思いました。結婚したころ、「伯父さんは今の私くらいのとき独身のまま戦死した」と分かってきました。
そして、娘が結婚するという今頃になって、「おばあちゃんは今の私より若いときに戦争で息子を失くしたのだ」と気づいて愕然としました。戦争はずっと昔に終わったと思っていたのは、何も知らなかったから。戦争を経験した身内の人たちが、自分と入れ替わるようにこの世の舞台を降りていたからでした。
戦争の生んだ悲しみを決して忘れさせない町の一つが広島です。世界遺産にも登録された原爆ドームがその象徴です。整然と建ち並ぶ近代建築物と緑豊かな公園のそばに、ドームは建っています。被爆当時、産業奨励館だったこの建物の中で働いていた人たちは、全員が即死だったそうです。
町の復興とともに取り壊し寸前になりましたが、ぜひ残さなければ、と声を上げて運動した人びとのおかげで、市議会が永久保存を決めました。
今回ご紹介する絵本の中でも、町の中心に原爆ドームがあります。過去から被爆の日まで、被爆の日から美しく立ち直ってきた現在まで、広島がどのような変遷をたどってきたかを、著者の那須さんと西村さんは6年の歳月をかけて取材を行い、この絵本に描き込みました。
たいへんな労作であったと思います。筆舌につくし難い、というのは、まさに被爆の惨状をいうのでしょうが、言い伝え、書き残し、訴え続けなければ、忘れられてしまうのです。
私は、先日、初めて広島へ行ってきました。原爆ドームから原爆資料館へ回りました。そこでは、本来なら夏休みであったはずの8月6日、学徒動員で作業に出かけたために被爆して亡くなった中学生・女学生が大勢いたことを知りました。私にとっては末の娘の年齢です。知らなかったでは済まさない、という無数の叫びを胸に、広島を後にしました。
那須正幹 文 西村繁男 絵 福音館書店社 2,730円
(2009年 ’平成21年’ 8月19日 147回 杉原由美子)