1つぶのおこめ
副題に、「さんすうのむかしばなし」とあります。いやですね~、算数なんて。でも、注文してしまったのは、絵があまりにも美しかったから。この絵本は、赤と金を基調として、青、緑、紫などを効果的に配色した、インドの細密画の手法で描かれています。そして、登場する村娘のラーニも、千一夜物語のシェーラザードのように美しいのです。
ラーニの住む国を治める王さまは、毎年きっちり年貢を取ります。「わたしが宮殿の米倉にしまっておいて、飢饉の年にはみなに分け与えよう」なんてうまいこと言ってました。
ところが、実際に飢饉になってみると、出し惜しみをして、庶民には一切お米を分けてくれません。その一方、自分と官僚たちの酒盛には、象に担がせるほどのお米を倉から運ばせるのです。
美しいだけでなく、賢いところもシェーラザード顔負けのラーニは、運ばれていくお米を注意深く観察していました。もしかして、王さまにも何かスキがあるのでは、と思っていたに違いありません。すると案の定、象が運ぶかごの1つに穴があいていたらしく、お米がこぼれ落ちているのです。
こぼれたお米を全部集めたラーニは、それを宮殿へ届けます。「なんと正直な娘。ほうびをとらせよう」と王さま。ラーニはそれに答えて、「では、お米を1つぶ」格好つけの王さまは、「もっと気前よくほうびをとらせたい」などと言うものだから、まんまとラーニの思うつぼ。「それでは、明日は今日の2倍の数のお米をいただきます。それを30日間」
この約束は、王さまにしては見通しが甘かったと言わざるを得ません。なにしろ、たった1つぶのお米が30日目には256頭の象が運び出すほどの数になってしまったのですから。
作者は、かわいいラーニが王さまの米倉をからっぽにしてしまうようすを、華麗またユーモラスに描いていきます。びっくりするやらおかしいやら。もちろん、お米はみんなに分け与えられ、王さまもすっかり心を改めました。
インドの子どもは、九九ならぬ、20×20、いや40×40までの暗算にも挑戦するとか。算数大国ならではの痛快な絵本です。
デミ 作 さくまゆみこ 訳 光村教育図書 1,995円 (2009年 ’平成21年’ 12月16日 151回 杉原由美子)