かあさんを まつ ふゆ
第2次大戦中のアメリカが舞台の絵本です。
夫を失ったらしい、エイダ・ルースのお母さんは、家族のために都会で働こうと決心しました。衣類をカバンに詰めながら、お母さんはエイダに言って聞かせます。「シカゴでは、黒人の女でもやとってくれるんですって。お金をかせいで送るからね」エイダは、泣き出してしまいそうで、何も言うことができません。
お母さんが出発してしまうと、エイダはおばあちゃんと2人で留守番です。おばあちゃんは泣きそうになるエイダをしっかり抱きしめて「何度も手紙を出してごらん」と言ってくれます。 でも、お母さんからの返事はなかなか届きません。来る日も来る日も、郵便屋さんは通り過ぎて行ってしまうのです。季節はめぐって雪も降り始めたというのに……。
お母さんはきっと手紙を書く間も惜しんで働いていたのでしょう。実際にお母さんが出かけていた期間は、1年か、半年か、いやもっと短かったかもしれません。けれども、待っている子どもにしてみれば、気の遠くなるような長い時間に思えたのです。
お母さんは元気で働いているだろうか、けがをしたり病気になっていたりしていないだろうか、もしかして私のことを忘れてしまったのではないかしら、などなど、大人なら気もつかないようなことをあれこれ考えるのです。
作者は、これ以上は削れないと思える文字数で物語を進めていきます。画家は、その寡黙な文章を補ってあまりある絵で、家族の心の豊かさを表現しています。つつましい暮らしぶりの中で大切に使い込んでいるらしい家具や食器が描かれ、エイダはどんな天気の日でもそれに合った身支度をしていて、お母さんやおばあちゃんの愛情の深さを推しはかることができます。
エイダのお母さんは、ちゃんとかせいで家に帰ってきました。戦時中の女性や黒人の工場労働は、後の公民権運動にもつながったといわれています。仕事は、生活を支えるばかりでなく、人間の誇りも育てます。エイダもまた、りっぱな職業婦人に成長するのではないかと希望を持たせてくれる絵本です。
ジャクリーン・ウッドソン 文 E.B.ルイス 絵 さくまゆみこ 訳 光村教育図書 1,470円
(2010年 ’平成22年’ 2月17日 152回 杉原由美子)
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