ごきげんななめの てんとうむし
明るい朝です。早起きのテントウムシが、葉っぱに集まるアリマキを見つけて飛んできました。テントウムシはアリマキが大好物なのです。そこへもう1匹のテントウムシが飛んできました。先に来ていたテントウムシが「おはよう」と声を掛けますが、後からきたほうは「あっちへ行けよ。ぼくが1人で食べるんだから」と、いきなりけんか腰。どうやらごきげんななめのようすです。
きげんの良いほうのテントウムシは、「たくさんいるから分けて食べよう」ともっともな提案をします。 しかし、ごきげんななめのテントウムシは正論にあえて抵抗して、ケンカをふっかけます。 が、「ケンカ?やってもいいよ」とまっすぐに見つめられると、たちまち怖気づき、「ぼくのケンカ相手にしちゃ君は小さすぎるよ」と捨てぜりふを残して、葉っぱから飛び立って行ってしまいました。
行きがかり上、ケンカの相手を見つけなければならなくなったテントウムシ君。まずはハチに挑みます。するどい針でおどかされて、ここでもやっぱり「君は小さすぎる」と言って回れ右。その後クワガタ、カマキリ、スズメ、ザリガニ等々、自分より大きな相手を見つけては、同じことを繰り返し、半日かかってケンカに勝つどころかおなかペコペコのままで元の葉っぱに逆戻りしてくるのでした。ああお粗末。こうはなりたくないタイプの見本です。それに引きかえあくまでも紳士然としているきげんの良いテントウムシ氏。
「おかえり。晩ご飯まだだろ?アリマキがまだ少し残っているよ」
「あ、ありがとう」思わず出た素直なお礼のことばに、それまでずっとはらはらさせられていた読者もほっとひと安心です。
子どもの頃から、「意地っ張りの短気虫」というキャラの私は、テントウムシ君とそっくりです。いったんヘソを曲げたらどうにも引っ込みがつかなくなるのです。そんな時、上手に操縦してくれる家族や友だちにどれほど救われたかわかりません。いくつになっても「ありがとう」だけは大事にしなければと思います。
エリック・カール 作 もりひさし 訳 偕成社 1,575円 (2010年 ’平成22年’ 3月17日 153回 杉原由美子)