ゴッホ 風がはこんだ色彩

 「ひまわり」の絵で有名な画家、フィンセント・ファン・ゴッホは1853年、オランダに生まれ、90年、フランスで亡くなりました。 わずか37年の生涯でした。
 この絵本では、子どもの頃からのフィンセントと4歳下の弟テオを描いています。2人は、画商として成功していた伯父の助けで、共に画商の道を歩み始めます。フィンセントも絵を売る仕事は気に入っていました。けれども、気性の激しさが災いして、せっかくの職場を解雇されてしまいます。
 そこで、父親と同じ牧師になろうと一生けんめい勉強し、伝道師見習いになります。赴任したのは、貧しい炭鉱町でした。フィンセントは、町の人々と同じようなみすぼらしいなりをして、食事も粗末なものをとって暮らしました。すると、その極端な行動が問題となって、解任されてしまいます。
 悩んだあげく、画家になることを決心し、テオに手紙を送ります。画商を続けていたテオは、すぐに住まいの世話や画材の調達を引き受けました。「兄さんはただ絵を描くことだけを考えてください。兄さんの絵はぼくが売ります。」
 その言葉通り、穏やかな人柄のテオは、生涯兄を支え続けました。テオの計らいによって、パリ、そしてアルル地方へと、居を移すことによってフィンセントの絵は劇的に明るさが加わっていきます。私たちが知るゴッホの絵のほとんどは、このころ、つまり彼が亡くなる前4年間くらいに描かれているのです。
 実際、700枚以上描いた絵のうち、フィンセントが生きている間に売れたのはたった1枚でした。その現実には思わずため息が出てしまいます。けれども、画家ゴッホは確かに誕生したのです。テオや、初めて自分の画廊に絵を飾ってくれたタンギー爺さんや、同じ屋根の下で絵を描いてくれたゴーギャンや、それこそ大勢の人々の力によって。
 そのおかげで私たちは、「ひまわり」の絵を楽しむことができます。それはひとつの奇跡といえるのではないでしょうか。

ロッサーニ 文 モナコ 絵 結城昌子 監訳 西村書店 1,890円  (2010年 ’平成22年’ 11月17日 161回 杉原由美子)

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