立山に咲くチングルマ

 表紙の写真をみた瞬間、心がざわめきました。こ、これって立山? タイトルを読んで「やっぱり!」そして、 著者名を見てガッツポーズ。今回ご紹介するのは、高知県ご出身ながら、長年立山山麓に住んで、立山の写真を撮っておられる高橋敬市さんの作品です。
 表紙を埋めているチングルマは、立山に咲く花の中でも最も親しまれている高山植物です。私は今までに3回、立山に登りましたが、いつもこのかわいらしい花が出迎えてくれて、ああ、立山に来たんだなあと実感することができました。
 よく知っている花のつもりで、いそいそとページをめくった私は、自分の見たのは、短い夏の間、大自然が期間限定で見せてくれたチングルマだったことに気づかされました。
 高橋さんは、観光シーズンのあとも、チングルマに会いに行っていました。チングルマは、 お日さまの光を求めて懸命に開いていた白い花びらを散らし終えると、種を飛ばす準備を始めます。タンポポのように、綿毛にタネをつけて、飛ばすのです。そのころのチングルマは、風車のような姿になっています。そして、その綿毛も旅立ってしまうと、花軸だけが残り、葉っぱは紅葉して、登山道を彩ります。やがて葉っぱには雪が降り積もり、立山に長い冬が訪れます。マイナス20度以下にもなる冬山で、チングルマは生き続けます。氷河期の気候に適応していたチングルマには、立山はちょうど住みよい場所なのです。そして待ちに待っていた春が来ると……。
 高橋さんは、チングルマの四季の営みを、それは丁寧に、いたわるように撮影した上、親しみやすい解説文を添えて、1冊の科学絵本としてまとめてくださいました。
 発売と同時に、県外に住む家族や知人に送ろうと、追加注文が相次ぎました。富山のいいところを伝える、いい本が生まれて、高橋さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。ますますのご活躍を願っています。

高橋敬市 文・写真 福音館書店 700円  (2012年 ’平成24年’ 2月22日 174回 杉原由美子)

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