かぜのおまつり
秋が深まってきました。この季節に味わいたい絵本をご紹介します。
山ざとに住むふうこは、保育園にバスで通っています。そのバスは、動物たちのイラストをペイントしたピンク色の幼児バスではありません。ふうこが乗っているのは、れっきとした路線バスです。峠の停留所で降りたら、バス停から家まで、かなりの道のりを歩かねばなりません。
晩秋のある日。その日は、バス停にはだれも迎えに来ていませんでした。ふうこは1人で元気に歩き出します。かしわ林の横を通って、からまつ林の横を通って、桜の木の下まで来ると、あけびがたわわに実っています。おなかがすいているふうこは思わず手を伸ばして、あけびをもいで食べようとしました。ところが、「ふうこちゃんお願い、 取らないで」という声が。さあ、ふうこの不思議体験の始まりです。
作者のいぬいとみこさんは、作家で、編集者で、文庫のおばさんでした。宮沢賢治の作品が好きで、暗記するほど読み込んでおられたそうです。この作品は後半生の住まいであった黒姫山を舞台にしていて、いぬいさんの愛した賢治の世界を模しているようでもあります。
梶山画伯の屏風絵を思わせる伸び伸びした筆づかいの絵が、ふうこを取り囲む風景と天候の移ろいを順々に描き分けていきます。秋の終わりには、そうそう、こんなふうに風が吹くし、雷が鳴るし、そして雪が降ってくるんだよね。初めてこの本を手にしたとき、次のページでは雪が降ってくるのかしら、降ってきたらいいのに、と思ってページをめくり、期待通りちらちらと粉雪が降る場面になっていたときはあっと息をのみました。
黒姫の自然を堪能し、そこに住む人たちの暮らしを大切に見守った、いぬいさんの思いが結晶している作品です。
たいへん残念ですが、現在は品切れのようです。お読みになりたい方は富山市立図書館など蔵書のある図書館でご覧ください。
いぬいとみこ 文 梶山俊夫 絵 福音館書店 (2012年 ’平成24年’ 10月24日 182回 杉原由美子)