ザビット一家、家を建てる

11月30日付の本紙23面に、ザビット一家の最近の写真が載りました。ザビットさんは、コソボ共和国のお父さんです。なんと、8人の子持ちですよ。
私は、「家を建てたお父さんだ」とわかって大喜びでした。ほんの十数年前まで、 コソボは独立をめぐって戦乱のさなかにありました。写真家の長倉洋海さんは、家や畑を破壊され尽くしても家族みんなで明るく生き抜いているザビットさん一家を3回、取材しています。
最初は6人の子どもがいたのですが、2回目に行ったときは7人に増えていて、取材中に8人目が生まれたのです。この8人目の男の子、ロニーくんの名前は、長倉さんの名前の「ヒロミ」からつけたのです。そして3回目に行ったときの写真が、先日の毎日新聞に載ったのです。9年の月日が過ぎています。
新聞に載った写真を見て、私も感慨深いものがありました。なぜかというと、バックに写っている家が、今回ご紹介した写真絵本のテーマだったからです。実をいうと、絵本には家の完成写真はないのです。もちろん長倉さんは、完成した家の写真を撮りたかったのですが、人一倍のんびり屋さんのザビットお父さんは、取材期間中に家を完成させることができなかったのです。しかたがないので、完成予定の家の前で撮った一家の写真で間に合わせました。9年後に、元気な一家のみなさんと共に家も見られて、ほんとうに良かったです。
絵本の中で、飛んだりはねたり、民族衣装を着て踊ったりしていた長女のセブダイエが、大学生になったそうです。長倉さんのホームページによれば、日本の東日本大震災の報を聞いて心配して、何度もメールをくれていたそうです。 たいへん失礼な言い方ですが、手作り(に近い)小さな家に11人も住んで、安定した職業にもなかなか就けないにもかかわらず、子どもたちが大学生になったり、外国へメールを発信していたりするなんて、驚きです。たくましく生きる力、 伸びようとする力を感じます。
私たち日本人も見習って、元気にならなくては。たとえ積雪があっても投票に行くことから。
長倉洋海 文・写真 偕成社 1,890円 (2012年 ’平成24年’ 12月19日 184回 杉原由美子)