コーヒーを飲んで学校を建てよう

 コーヒーは好きですか?私は、大人になってからは毎日飲んでいます。飲めば少しは頭の回転が良くなるような気がして、 助かっています。それにしても、コーヒーを飲んで学校を建てられるなんて、どこのお話でしょう。
 舞台はタンザニアです。コーヒーの原産地アフリカ大陸を日本の九州に例えるなら、 宮崎県南部あたりに位置するのがタンザニアです。アフリカの最高峰キリマンジャロ山はここにあり、 「キリマン」と呼ばれる最高品質のコーヒー豆をこの山のふもとで栽培しています。
 著者のふしはらさんは、飛行機とバスと、4WD車を乗り継いで「キリマン」産地のルカニ村を訪ねました。標高1500㍍のルカニ村は、夏でも夜にはセーターがほしいくらいの気候で、コーヒー栽培に適しているのです。ルカニの人々は昔から、現金収入、とりわけ子どもの教育費を得るためにコーヒー栽培に力を注いできました。赤ちゃんが生まれるとコーヒーの木を植えます。赤ちゃんが学校に入るころから、コーヒーは花をつけ、実を結ぶようになります。その後どんどん収量は増えて、子どもが成人するころにピークを迎えます。そして、50~60年間実をつけて役目を終えます。人の一生みたいですね。
 ところが、自然相手の農作物は不作の年もあるし、価格が下落するときもあります。10年ほど前に、 コーヒーの国際価格が暴落し、ルカニ村の人々の生活が危機に瀕したことがありました。不安定な市場価格に左右されない取引はできないものか、村の人たちは、農業経済の研究に来ていた日本の学者さんに相談を持ち掛けました。「ヒデ先生」と呼ばれていた辻村英之氏は、自分にとって第二の故郷ともいえるルカニ村を応援しようと、輸入者、焙煎者、販売者等を開拓し、ルカニから日本へのコーヒー直通ルートを作り上げました。こうして安定した収入を得るようになったルカニ村では、診療所や図書館や中学校を新築することができたのです。
 この本を読むと、コーヒーを育てることと人を育てることが同時進行していることが分かります。ふしはらさんの柔らかく、あたたかいタッチの絵も「キリマン」の里を身近に感じさせてくれます。コーヒーがいっそう美味しくなる本でした。

ふしはらのじこ 文・絵 辻村英之 監修 福音館書店 700円  (2013年 ’平成25年’ 5月22日 188回 杉原由美子)

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