もうすぐおしょうがつ
お父さんとお母さん、ひろくんとゆうちゃんの兄妹は、年暮れの28日におじいちゃんおばあちゃんの家にやってきました。 そこでお正月を過ごすのです。29日には大掃除。30日にはお餅つき。31日には買い物に行って来て、おせち料理をこしらえ、新年を迎えようという計画です。
市電(が出てくる)を降りて、見覚えのある角を曲がっておじいちゃんの家に飛び込むと、「よう来たよう来た」 と歓迎されて、「大きゅうなったなあ」といつも同じようだけど、うれしい言葉をかけてもらい、おやつは食べ放題と、子どもにとってはいいことずくめ。
つまるところ、家族構成も含めて、理想的な日本の年越し風景を描いている絵本なのです。鏡餅、しめ飾り、お屠蘇、 年越しそば、除夜の鐘、など、なじみ深い品々、習俗が登場し、子どもたちがかかわりを持ちます。現実には、 年末だからといって仕事を休めない親も多いし、そうなると大掃除やお餅つきまでは手が回らない、おせち料理は外注か、いっそ外食しようというおうちも増えていることでしょう。
この絵本の初版は干支を二まわりさかのぼる24年前。一時期品切れ状態になっていました。その間にも理想と現実の距離はますます広がりました。けれども、不思議なことに絵本は復刊され、新たな読者を獲得しています。
うちの3姉妹もこの絵本が大好きでした。自分たちは年がら年じゅう祖父母といっしょに生活しているので、ちょっと事情は違うはずですが、大晦日前後の気ぜわしさを楽しんでいたのでしょう。
築40年はたっていると思われる日本家屋のうちそとも、自分たちの家と似ていて親しみを感じたのだと思います。おまけに、やさしいおじいちゃんと、やや口うるさそうなおばあちゃんの取り合わせがなんとも真に迫っていて、よそのうちとは思えなかったのかも……。
さて、初版本を愛読していた娘たち、とっくにお母さんと呼ばれてもいい歳になっているわけですが、ジジババの待つ家に、飛び込んでくる孫はおりません。理想と現実の差はやはり大きいと言わざるを得ません。せめて今年も絵本を楽しみましょう。
西村繁男 作 福音館書店 840円 (2013年 ’平成25年’ 12月18日 195回 杉原由美子)