きりぎりすくん

 きりぎりすといえば、勤勉に働く者たちにばかにされる遊び人の代名詞。この絵本の主人公である「きりぎりすくん」はどうかというと、ひと言では説明できません。 何といっても今どきの「きりぎりす」なのですから。
 ある朝目覚めたきりぎりすくんは、無性に旅に出たくなります。外に出てみると、丘の上に向かって延びている一本の道が。きりぎりすくんは、 自分の進むべき道だと直感して、さっさと歩き出します。
 少し行くと、「おはようぐみ」と称する虫の一団に出くわします。「おはようぐみ」とは何か。朝を賛美する会のことです。彼らの掲げているプラカードには、 「朝が一番」「朝が大好き」「朝を愛す」「朝ばんざい」などと書かれています。「朝が好きか」と聞かれて「そうね」と答えたきりぎりすくんを、 虫たちは大喜びで「おはようぐみ」の一員に迎え入れます。そして、歓迎のしるしにきりぎりすくんの首に花輪をかけ、「朝は最高」と書いたプラカードを持たせます。 「仲間だと思ってたよ。やさしい顔してるもの」とも、言われました。
 さて一団は、歌ったり踊ったり、熱狂的に「朝」を褒めたたえながら行進を始めました。ここに至って、 きりぎりすくんはついうっかり「ぼくは お昼過ぎも好きだよ」って発言してしまうのでした。だって、嘘はつけませんもの。 ついでに「夜もとてもすてきだな」と言ってしまったからもうたいへん。「おはようぐみ」の一団はきりぎりすくんから花輪とプラカードを奪い取り、 罵声を浴びせて置き去りにしてしまいます。
 このような調子の短いお話が6話入っています。それぞれのお話に、「あおむし」「いえばえ」「か」「ちょう」「とんぼ」が絡んできて、きりぎりすくんと問答になります。 きりぎりすくんはなかなかの賢者で、相手を傷つけることなく、それでいて自分の思いを曲げることもなく、満足しながら旅を続けていきます。
 続編があったらいいのに、と訳者の三木卓さんも考えられたのかどうかは分かりませんが、読者のカーテンコールに応えるかのような「訳者あとがき」が、この本の貴重なおまけです。年代を問わす楽しめる絵本です。

アーノルド・ローベル 作 三木卓 訳 文化出版局 922円  (2014年 ’平成26年’ 6月18日 200回 杉原由美子) 

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