やぎのしずかのしんみりしたいちにち
やぎの「しずか」は、田島征三さんが飼っていた、雌のヤギです。田島さんは、東京都内とはいえ、 多摩丘陵の奥にある村里で子育てをしたので、お子さんたちの栄養補給に、ヤギのミルクがとても役に立ったそうです。
そしてしずかは、ミルクばかりでなく、田島さんの創作活動にも多大な貢献をしました。 しずかを主人公にした最初の作品「こやぎがやってきた」は、1975年に発表され、その後次々に続編が出ました。 子ヤギだったしずかが、結婚してお母さんヤギになって、子どもを育てて、と、 その人生(ヤギ生?)のすべてが絵本化されたのです。家族同様の存在だったのですね。
今回の「しずか」は、これまでになかった一面を見せています。どちらかというと騒々しくて、 ご近所にとってはトラブルメーカーだったしずかなのですが、ここでは一転して、 「しんみりするってどんな感じなんだろう」と、考えをめぐらします。
いったん思考モードに入ると、人(ヤギですが)は、見るもの聞くものすべてに意味付けをしようとします。 しずかも、今まで鳴いていたセミが突然ぽとりと木から落ちてきたこと、草むらのクモの巣にかかった露がとても美しいこと、 などに無関心ではいられなくなってしまったのです。
しずかの友だちの虫や鳥たちは、しずかがいつになく静かなのを心配してくれます。考えすぎて眠くなったしずかは、 とりあえず昼寝をすることにしました……。
私はここで、昼寝の時間が長くなってきた、うちのおじいちゃんのことを思わずにはいられませんでした。 94歳になったおじいちゃんは、「しんみりする」ことを身をもって教えてくれているのかもしれない、と。
少し前に、『やぎのしずかのたいへんなたいへんないちにち』という作品も出ています。これは文字通り、 しずかが大騒ぎをやらかすお話です。そのときさんざん迷惑を蒙った友だちが、今回の作品では、 しずかにとても優しくしてくれるのです。できれば、両方とも読まれて、 田島征三さんの可笑しくてしんみりする世界を味わってください。
田島征三 作絵 偕成社 1,404円 (2015年 ’平成27年’ 9月16日 214回 杉原由美子)