ふしぎなボジャビのき

 副題に「アフリカのむかしばなし」とあります。先日「世界のともだち」という写真絵本シリーズのパネル展をやった時、 アジア・アフリカ地域を舞台にした絵本も、できるだけ集めてみました。40冊ほどあった中には、初めて知った本もあって、これもその1冊です。
 昔々のアフリカ。ある時、日照りが続いて大地はカラカラ、草はしおれ、木は全部枯れてしまいました。 食べ物を求めてさまよっていた動物たちは、荒地にすっくと立つ一本の果物の木を見つけます。思わず駆け寄ってみると、たわわに実った赤い実は、 マンゴーのような甘い香りを放ち、メロンのように大きく、ザクロのようにみずみずしいのです。ところが、幹に大きなヘビが巻きついていて、 実を取ることができません。リーダー格のゾウが、交渉役をかって出ました。
 「ヘビさんや、わたしらはおなかがぺこぺこだ。ちょっとそこをどいて、木の実を取らせてくれないかね?」
 しかしヘビは、「だったら、この木の名前を言ってごらん」と答えたのでした。
 初めて見た木の名前など、分かるはずがありません。さあ、どうする。すると、小さなカメが言うには、 「ひいひいおばあさんがこんな木の話をしてた。サバンナの王様だけが木の名前を知ってるって」。
 ではだれが聞きに行く? シマウマ、サル、ゾウたちが名乗り出て、サバンナの王様であるライオンのところへ出かけて行きますが、みな、 帰る途中で木の名前を忘れてしまうのでした。しかも、静かに昼寝をしたいライオンは、何度も起こされて相当イライラし始めています。とうとう、小さなカメが大役を引き受けることになりました。「ぼくは忘れないよ。覚え方を知ってるもん。ひいひいおばあさんに教わったんだ。」
 そして、本当に賢いカメのおかげで、動物たちは無事、おいしい木の実を食べることができたのでした。
 小さいけれどお利口なカメがみんなを救う顛末が痛快なのはいうまでもありませんが、サバンナの王者たるライオンの風格にも圧倒されます。 大切な木の実が公平に分配されるよう守っていたという解釈もできるからです。いざというときの食糧問題、私たちの国は大丈夫なんですかねえ。

ダイアン・ホフマイアー 再話 ピート・フロブラー 絵 さくまゆみこ 訳 光村教育図書 1,512円
(2015年 ’平成27年’ 10月21日 215回 杉原由美子)

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