ソーニャのめんどり
ソーニャのお父さんはお百姓さんです。ある日ソーニャに「ひとりで 世話をしてみるかい?」と、3羽のひよこを託しました。
ソーニャは、お父さんお母さんに負けないくらい早起きして、水をやったり敷きわらを取り換えたり、 えさのとうもろこしを砕いてやったり、こまめにひよこたちのお世話をしました。その甲斐あって、みな立派なめんどりに育ち、 たまごを産んでくれるまでになりました。
ところがある冬の夜、鳥小屋で凄まじい音がしたと思ったら、一羽のめんどりがキツネに捕まって、持ち去られてしまったのでした。
お父さんに抱かれて、泣いて泣いて泣き疲れて、それでも悲しい事実を受け入れられないソーニャに、 おとうさんはゆっくりと話して聞かせます。
「キツネは、子ギツネたちにおなかいっぱい食べさせてやりたかったんだよ」と。お父さんは、どんな生き物も、 子どもがおなかをすかせないように、一生懸命なのだと言って聞かせます。とても心打たれる場面です。今私には、 読んで聞かせる子どもが身近にいませんが、いざ読み始めたら、泣けてしまいそうで、心配です。
それは、読んでいると、さまざまな思いが交錯するからです。キツネとめんどりの命だけではなく、人間社会、 地球環境全体へ思いを巡らせる作品になっているからです。自分がここでこうしている間にも、ひもじい思いをしている人、 危険な場に追いやられている人がいる、そういう思いです。
作者は、ごく若い女性で、本邦初登場です。この作品で、 新人絵本作家の登竜門といえるエズラ・ジャック・キーツ賞を受けているそうなので、何もつけ加える必要はないのですが、 しみじみとよく書けていると思います。絵も、素朴そうでいて奥行きが深く、着物や家具や背景の隅々にまで気配りが感じられます。
そして、最初と最後のソーニャの言葉「わたしが おかあさんに なってあげる」がすべてを語り尽くしているようで、みごとな訳文だと思います。
フィービー・ウォール 作 なかがわちひろ 訳 くもん出版 1,512円
(2016年 ’平成28年’ 7月20日 224回 杉原由美子)