がらくた学級の奇跡
パトリシアは、お話を聞いたり、絵を描いたりすることが大好きな、元気な女の子。でも、なぜか、本を読むことは苦手だったのでした。 「赤ちゃんみたいに読むなよ」と、男の子たちにからかわれて劣等感のかたまりになっていたパトリシアを、熱心に指導してくれる先生が現れ、 学年が変わって転校する頃には、すっかり自信がついていました。みんなと同じになった、と。
ところが、転校先の学校でパトリシアが入れられたのは、「がらくた学級」というあだ名のついた、特別教室でした。 そこに集められた生徒たちは、みな何らかの障がいを持っているのです。成長が速すぎる病気のジョディ、トゥーレット症候群のギビー、 場面緘黙のラヴァンヌ、そして弱視のトム、というように。そして、同じ学校の中にいるのに、「がらくた学級」の生徒だということがわかると、 一緒にランチを食べることも拒否され、いじめの標的にされてしまうのでした。
「僕たちはどうせがらくたなんだ」「がらくたって、だれも欲しがらないものなんだ」。生徒たちが元気をなくしかけたとき、 担任のピーターソン先生がきっぱりと答えました。
「あなたたち、がらくた置き場がほんとうはどんなところか、気づいていないの?素晴らしい可能性に満ちたところなのよ。 今すぐ、近くのがらくた置き場に行ってみましょう」
そうやって、がらくた置き場から持ち帰った材料で創った作品の中に、パトリシアたちの班の飛行機もありました。
「この飛行機は重力に逆らって、月まで飛ぶんだ」
メカに強いギビーが宣言しました。信じられない、という顔のクラスメートたち。でも、ピーターソン先生はまた、きっぱりと、
「私は信じますよ、私一人だけだとしても」
そして、学校の科学フェアの日、「がらくたの奇跡号」と名付けられた飛行機は屋上から離陸し、 雲のかなたへと飛び立っていったのでした。
作者、パトリシア・ポラッコの実体験です。飛行機を飛ばしたギビー君は、後年NASAの航空エンジニアとなって、 月着陸船の設計に参加したそうです。
「がらくた」と一括りにされた子どもたちに愛情を注ぎ、どの子も可能性を秘めていると信念を持ち続けたピーターソン先生。 パトリシアは、類い稀な記憶力と表現力で、子どものころの悲しみ、そして生きる喜びを作品に結晶させています。
これで3冊目のご紹介となりますが、画家への道を拓いてくれた先生の思い出を描いた本は、残念ながら現在品切れになっています。
パトリシア・ポラッコ 作 入江真佐子 訳 小峰書店 1,620円 (2016年 ’平成28年’ 8月24日 225回 杉原由美子)