いろいろいっぱい
表紙に描かれている鳥やけものや魚たち、いったい何種類あるのでしょう。動物だけではありません、さまざまな色や形の植物も、所狭しと描き込まれています。 それが、この本のテーマです。
表紙を開くとさっそく、「地球には何種類の生き物がいると思う?」と問われます。思わず辺りを見回し、朝から何を見たかな、食べたかな、と思い返します。 カラスやスズメやハト、イヌ、ネコは、毎日見ています。食材として台所にあったのは、大根やカブ、ジャガイモ、玉ネギ、人参、キャベツなどなど。 あっという間に両手の指でも足りなくなります。
でも、実際はとてもそんなものではなくて、現在わかっているだけでも、200万種類の生物が存在、 おまけに毎年数千種類の新しい生物が発見されているそうです。意識してもしなくても、このたくさんの生物が、お互いに影響を与え合って地球上で暮らしているのです。
絵本の中では、生き物たちが、与えられた場所で与えられた役割を健気に果たしている様子を描いています。個体が独自に生きるのではなく、 他者とのつながりの中で生きてこそ、誕生した意味があることがわかってきます。
絵を描いたエミリー・サットンさんは、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の服飾展示室を舞台にした絵本も手掛けています。この絵本も、 写実的なイラストでありながら、どのページもドレスのデザインのように美しくて、ついうっとりと眺めてしまいます。自然界の調和も、 本来このように美しいものであろうと思います。
テキスト担当のニコラ・デイビスさんは、野生生物と人間の共存について提言を続けている人です。『ゾウがとおる村』や『クジラに救われた村』などの 児童文学書(さ・え・ら書房)もあり、どちらも、人間の都合で生存を脅かされた野生動物たちが、人間の反省にもとづいて、窮地を脱していく物語です。
自然を壊すのも守るのも人間です。人間に与えられた役割は何なのか、美しい絵本ですが、問うている課題は重いです。
ニコラ・デイビス 文 エミリー・サットン 絵 越智典子 訳 ゴブリン書房 1,620円 (2017年 ’平成29年’ 3月22日 231回 杉原由美子)