へんてこ!みずの ぜつめつどうぶつ

 今からちょうど10年前の8月の本欄で、はたこうしろうさんの作品、『なつのいちにち』をご紹介しました。いつもはお兄ちゃんと行くのに、 その日は一人で虫取りに行ったぼく。危ない目にあったり、悔しい思いをしたり、おまけに夕立に遭ってずぶ濡れになったり…。
 それでも、 でっかいクワガタの捕獲に成功して大満足、という内容で、はたさんの、幼い日の鮮烈な思い出を描いた絵本でした。そうです、はたさんは、 小さいときから虫好き、どうぶつ好きだったんです。
 けれども、今回の本に出てくるどうぶつは、どれだけ追いかけても捕まえることができません。なぜなら、「ぜつめつどうぶつ」だから。
 水族館に来た仲良し兄弟は、「ぜつめつどうぶつコーナー」があることを知ってびっくり。おまけに弟くんが、不思議の国のアリスのように、 突然穴に落ちたかと思うと、そこでは「ぜつめつどうぶつ」たちが悠然と泳ぎ回っているのでした。
 アンモナイト、三葉虫、ハルキゲニア、チョッカクガイ。クジラやサメやジュゴンの祖先たちもいっぱいいました。
 弟くんは、 どうぶつたちと泳いだり、遊んだりしながら、もう会えないなんてつまらないなあ、と思ってしまうのでした。絵本だからできる手法といいますか、 人間の子どもを登場させることで、ぜつめつどうぶつたちの大きさや、怖さ、愉快さなどが見えてきて、愛着がわいてきます。生きもの大好きの、 はたさんならではの仕事だと思います。
 どうぶつたちは、古代においては、恐竜と同じように、気候の変化によって絶滅したようですが、近現代においては、 人間が獲りすぎたために絶滅したものもたくさんいるのです。二ホンアシカもその一例で、全国に分布していたにもかかわらず、 油や毛皮をとるために乱獲され、1950年ころに絶滅してしまいました。
 古生代から現代までの「ぜつめつどうぶつ」と会ってきた弟くん、お兄ちゃんはうらやましくてたまりません。でもね、 お兄ちゃんは春に刊行された『へんてこ!りくのぜつめつどうぶつ』という絵本では、ナビゲーターをつとめているので、これでおあいこなんです。 はたさんの粋な心配りですね。

はたこうしろう 作 アリス館 1,728円  (2017年 ’平成29年’ 8月16日 236回 杉原由美子)

毎日新聞/Web   プー横丁/TOP

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