はせがわくんきらいや
この絵本を作ったのは、はせがわくんです。でも、作中に22回も「はせがわくん」が出てきて、きらい、しんどい、めちゃくちゃ、などと言われっ放しです。 なぜかというと、はせがわくんは体が弱くて、みんなと同じことができないからです。
先生は、「長谷川くんは体が弱いから大事にしてあげて」と言うけれど、 はせがわくんは気難しいところがあって、とんぼを取ってあげても「虫はきらい」と言うし、行きたい言うから山登りに連れていったのに途中でへたって おんぶさせられるし、野球の試合では緩いボールを投げてもらってるのに三振ばかり。あげくに鉄棒から落っこちるし、いっしょにいたらしんどうてかなわん。 だから、はせがわくんだいきらい、になってしまうのです。
きらいや、めんどうやと言いながら、はせがわくんを見守る子どもたち。はせがわくんも、けんかでは勝てないからピアノで勝つと言ってピアノのおけいこを 始めたりして、負けていません。
作者の長谷川集平さんは1955年4月19日、兵庫県姫路市生まれ。母乳が出なかったお母さんは、森永の粉ミルクを集平さんに飲ませました。 その頃、近畿一円で発生していた乳児の奇病を調査していた岡山大学の先生が、病気の原因はこのミルクだと発表したのは、4か月後の8月24日でした。 集平さんは、その間に3缶飲んでいたので、発育が遅れることになったのです。
作中で、お母さんが「もっとひどい人や死んだ人もぎょうさんおってんよ」 と言っているとおり、半年ほど早く生まれてこのミルクを飲んでいた人は、もっと重い後遺症を抱えて生きておられます。
集平さんは、自分や友人たちの体験を元に、弱冠20歳のとき、この作品を世に問いました。深刻な事件の被害者の、告発の書ともいえる作品ですが、 漫画風の洒脱な絵と関西弁に引っ張られて読むうち、懸命に生きようとするはせがわくんたちのエネルギーが伝わってきます。
そして、「おばちゃんのゆうこと、ようわからへんわ。なんでそんなミルクのませたんや」とはせがわくんのお母さんを責める子どもの言い分に、胸を突かれます。 子どもの命を大事にしていますか? と、私たちは問われ続けているのです。
長谷川集平 作 復刊ドットコム 1,728円 (2018年 ’平成30年’ 4月18日 244回 杉原由美子)