花ばぁば

 表紙には、すみれの花とおさげの少女。なんの屈託もなく、靴を脱いで、ほおづえをして、幸せな未来を約束されているかのような姿です。そう、戦争さえなければ、少女は、おだやかに生きて、 だれかの妻となり、母となり、祖母になっていたはずでした。
 少女の名はシム・ダリョン。1940年ごろ、突然、日本兵にさらわれて、従軍慰安婦にされました。戦争が終わって、置き去りにされたシム・ダリョンは、20年もの間、記憶を失っていました。 「私の姉ではないか」と申し出た女性が、大切に面倒をみてくれて、ようやく記憶がもどった時、妹は亡くなってしまっていました。
 それからさらに30年くらい経って、「戦争中に、どんなことがおきていたか、教えてほしい」と、人々が訪ねてくるようになりました。その人たちの仕事は、 戦争が人生を破壊してしまうこと、戦争は二度と起きてはいけないと、世界に訴えることでした。
 シム・ダリョンは、懸命に記憶を呼び戻し、辛い経験を語り、この絵本が生まれました。韓国では、2010年に初版が出ています。当然のことながら、日本でも同時期に出版される予定でした。 しかし、シムさんの証言と、日本側の資料が一致しないという理由で、出版が延期されました。記録する手段もない境遇にあった人が、ほんとうは忘れたい記憶を必死に呼び覚ましたのに、 なんと冷酷な仕打ちでしょう。
 著者のクォン・ユンドクさんは、その後改訂版を作り、日本語版が出版される日を待ち続けました。そして、日韓の200人以上の支援者の力を得て、昨春、日本語版が出版されました。
 この絵本は、従軍慰安婦という、暗い歴史上の事実に忠実に向き合いながら、美しい花々を登場させることで、読者を惹きつけることに成功しています。子どもたちには、 一度にすべてを理解できなくても、シムさんたち慰安婦の痛み悲しみを感じることはできるはず、と、著者はあとがきに書いています。
 当プー横丁においては、昨年の売上ベスト1です。

クォン・ユンドク 絵・文 桑畑優香 訳 ころから 1,944円  (2019年 ’平成31年’ 2月20日 254回 杉原由美子)

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