ひみつのビクビク
表紙に描かれている、ふわふわしたおばけが、「ビクビク」です。ビクビクのそばに座っている女の子は、 こうやってビクビクに守られて、幸せに大きくなりました。
ところが、女の子たち一家が外国で暮らし始めて、事情が一変します。なにしろ、 そこでは言葉が全然通じないのです。ビクビクは張り切って、女の子をもっとしっかり守ろうと、巨大化します。 女の子は巨大ビクビクのうしろに隠れて、学校でも家でもしゃべらなくなってしまいました。
今日もビクビクの陰で、一人でお絵描きしていると、同じように一人ぼっちだった男の子が、 自分の絵を見せにきました。二人は、かわりばんこに絵を描いて楽しみました。それも悪くないけど、 思い切って外で遊ぼうとしたら、いきなり犬が吠え立てて、男の子は咄嗟にビクビクのうしろに隠れました。 そうなんです、男の子のほうにもビクビクがいたのです。気づいてみたら、どの子も、そして大人も、 みなビクビクを連れて歩いているんです。なんだ、そうだったんだ...。
この絵本に出合ったとき、私は、自分のことを描かれている気がしてびっくりしました。 私は、赤ん坊のときから人見知りが激しくて、物心ついてからも誰にも「こんにちは」も言えませんでした。 いつも、母か姉のうしろでビクビクしていました。自然ななりゆきで、幼稚園で早くも不登園児になりました。
でも学校は、ビクビクしながらも不思議と休まずに行けました。ビクビクがちょっとだけワクワクに 変わったと思います。先生はおとなしすぎる私を心配して「もう少し明るく」なってほしいと母に言っていましたが、 母にしてみたら、不登園児が休まずに学校へ行ってるだけで、たいへんな進歩と思っていたことでしょう。
人には、それぞれの一歩があるのだと思います。ビクビクしながらの一歩なら、なおのこと、 貴重な一歩なのです。それでも、ビクビクが大きくなりそうになった時、 この絵本を思い出して深呼吸してみてくださいね。
フランチェスカ・サンナ 作 なかがわちひろ 訳 廣済堂あかつき 1,728円 (2019年 ’令和元年’ 6月19日 257回 杉原由美子)