こねずみとえんぴつ
副題に「12のたのしいおはなしとえのほん」となっています。読み物でありながら、全ページカラー刷りの絵本でもあるのです。 どのお話にも小さな生きものたちが出てきて、個性を発揮しています。
第1話「ひよことあひるのこ」。ほぼ同時にたまごから生まれたひよことあひるの子は、すぐに仲良く遊びます。 何でも同じようにできると思っていたひよこは、あひるの子に続いて、池に飛び込んでしまい、危ないところをあひるの子に助けられます。
第5話「いろんなおおきさのくるまのわ」では、はえとかえるとはりねずみとおんどりが、助け合って暮らしています。 ある日4匹は、森で見つけた出来損ないの荷車の車輪を持ち帰ります。「大きさの違う4個の輪っかが何の役に立つの?」と、 通りがかりのうさぎに笑われますが、4匹は「きっと役に立つはず」と、意に介しません。
そして、一番小さな輪っかは、はえのつむぎ車に、次の輪っかは、はりねずみの一輪車の車輪に、 3番目はかえるの井戸の水汲みハンドルに、一番大きな輪っかは、おんどりが水車小屋の水車に加工して、粉ひきの役に立ったのでした。 からかっていたうさぎは、4匹の勤勉な姿にいたく感心して、すなおに「わらってごめんね」と謝ります。
作者のステーエフさんは、20世紀のロシアのアニメ映画界を創設、けん引した監督です。絵はあくまでも明るく親しみやすく、 ディズニーのキャラクターに劣らぬ魅力で子どもたちを惹き付けます。でも、お話の内容は、英雄物語でもお姫様物語でもありません。 一見おとぎ話ふうながら、日常生活に目配りした生きもの讃歌となっています。
後半には、人間の子ども全く違和感なく混じってきます。困ったことが起きても、ほのぼのとしたやりとりをしながら、 ほっと安心できる結末に導かれます。お話はすべて独立しているので、好きなものだけ繰り返し読んでも構いません。 温かい湯たんぽのような1冊です。
ステーエフ 作 松谷さやか 訳 福音館書店 1,980円 (2019年 ’令和元年’ 11月20日 262回 杉原由美子)