ぼくはひとりぼっちじゃない
戦後最悪の複合災害、東日本大震災から9年が経ちました。地震と津波と原発事故。被害が大きすぎて、どこで何が起きていたか、すべてを正確に語ることは困難です。建屋爆発があった原発は福島県双葉町、児童の避難誘導が遅れて74人も亡くなった大川小学校は宮城県石巻市、そして、今回の絵本のモデルとなった奇跡の一本松があるのは岩手県陸前高田市です。これだけ取り上げただけでも、被災地の広さを思い知らされます。
奇跡の一本松、この絵本の中では、「わらう木」と呼ばれます。いつも穏やかなほほえみをたたえているからです。でも、「わらう木」にも、心配ごとがあります。それは、波に押されて傾いて、しっかりと根を下ろすことができなくなったことです。「わらう木」のおかげでツナミから助かった二人、ポポとロボは、こんどは自分たちの力で木を助けようと、何か役に立つものはないか、探しに出かけます。
道中、2人が遭遇するのは、カエル、ウサギ、ネコ、フクロウ、ブタ、隣村のおばば、わらの馬、果ては幽霊さんたち…。小さくてか弱くて、頼りない者ばかり。おとぎ話につきものの、力持ちとか、賢者とか、金満家とかは登場しません。
ところが、「わらう木」を元気にしたい一心でつながった面々は、それぞれの得意技と力を合わせて、ワッショイワッショイ、「わらう木」をまっすぐに立たせて、もう一度根を張らせることに成功します。そして、いっしょに念力を送っていた幽霊さんたちは、いつの間にか「わらう木」の周りの野原に咲く花々となっていました。
「わらう木」を助けたポポとロボが、再び旅に出発する形でお話は終わります。「ぼくたちはひとりぼっちじゃない」の思いをエネルギーとして。
被災地では、9年経ってなお2500人以上が行方不明です。助けてほしい人がまだまだいるということです。小さな力でもやれることはないか、考えましょう。ひとりぼっちじゃないと、まず呼び掛けることから始めましょう。
つかさおさむ 作・絵 理論社 1,540円 (2020年 ’令和2年’ 3月18日 265回 杉原由美子)