あなふさぎのジグモンタ
ジグモンタさんは「あなふさぎや」です。先祖代々培ってきた技術を活かして、衣類の穴をふさぎます。大事な衣類に穴があいたら、みんなジグモンタさんのところに持って来て、きれいに直してもらいます。ジグモンタさんは、自分の得意技でみんなが喜ぶ、この仕事が大好きでした。
ところが、「新しいものを買ったほうがいい」と思う者が現われてきます。ジグモンタさんは落ち込んで、看板をしまい、放浪の旅に出ます…。
なんだか他人事とは思えないです。うちの店の中で、若い親御さんが「本よりビデオだよねー」とつぶやくのを聞いてしまってから、既に20年が経ちました。ジグモンタさん、お店はどうするの、あなたの腕を活かす仕事はもうみつからないの?
旅の途中で、ジグモンタさんは、穴だらけになっていたフクロウの子どもたちの毛布を修繕します。暗がりで大急ぎであなふさぎをしたので、出来栄えは散々でした。「やりなおしたいのですが」と申し出るジグモンタさんに、フクロウのお母さんは笑って答えます。「子どもたちを思い出して楽しくなる」からこれでいいと。あなふさぎの時、あわててフクロウの子たちの羽根を織り込んでいたのですね。
そこでジグモンタさんには、ひらめくものがありました。
暗い気持ちで来た道を、こんどは楽しく歌いながら帰ります。色とりどりの花や草をあみ袋に詰め込んで。
ジグモンタって、おしゃれな名前だけど、いっぺんでは覚えられないような。それでは、漢字を当ててみましょう。「地蜘蛛ん太」。そうなんです、ジグモンタは、地蜘蛛のおっちゃんなんです。地蜘蛛は、地面に近いところにあみを張って、通りかかった虫を捕らえ、あみが破れたら修理して使い続けるそうです。
へえ~そうなのかと、庭の草むしりのときに気をつけていたら、見つけましたよ、地蜘蛛の巣。
絵本で知ってから本物の地蜘蛛を知るのもいい経験でした。本もビデオもいいけど、実体験がいちばんかも、です。
とみながまい 作 たかおゆうこ 絵 ひさかたチャイルド 1,430円 (2020年 ’令和2年’ 7月22日 269回 杉原由美子)