ギアナ高地 謎の山 テプイ

 ギアナ高地は、南アメリカ大陸の北の方、赤道直下に位置しています。ここには、簡単には登れない山があり、それをテプイと呼んでいます。私たちは、山といえばすり鉢を伏せたような形を思い浮かべますが、テプイは、天然のブロック塀というか、どこも切り立った崖なので、ふもとから登る道をつくることができません。
 テプイにある落差979㍍の滝「エンジェルフォール」も、どこにもぶつかることなくまっすぐに落ちてくるので、途中で霧になって消えてしまい、滝つぼというものがないのです。ほら話みたいなほんとうの話です。
 その滝を発見したのはアメリカ人の飛行士だったのですが、テプイを調査するには、空から舞い降りるしかありません。ふもとで昔から暮らす人々にとっても、テプイは謎だらけの存在で、人や獣を獲って喰う怪鳥が住んでいるなどと怖れてきました。
 確かに、てっぺんに降りて探検を始めると、大きな井戸のような縦穴がいくつもあいていて、油断なりません。そろりそろりと降りていくと、大きな横穴が通じていて、なにやら生きものの気配が… … 。不気味な怪鳥の伝説が生まれるのも無理はないと思われるのでした。
 赤道直下にあっても、頂上の標高は2500メートルもあるので気候はきびしく、強風と大雨にさらされた大地には、植物らしきものがなかなか育ちません。長い時間をかけてコケや地衣類が岩を覆うまでになると、そこに初めて植物が根を張り、小さな虫や両生類が発生します。
 それらは、ふもとでは見られない生きものです。見た目はカエルでも、オタマジャクシの時期がなく、ゆっくり歩くだけで飛び跳ねないカエルとか。クモなのかカニなのかわからないヤツとか。根からは取りにくい栄養分を、虫を捕らえて補おうとする食虫植物とか。
 著者の寺沢孝毅さんは、もともとは北海道の小学校の先生でした。初任地の天売島(てうりとう)は、世界的に有名な海鳥の繁殖地で、空飛ぶペンギンとも呼ばれる絶滅危惧種ウミガラスは、日本ではここにしかいません。ウミガラスの保護活動にも参加した寺沢さんは、教師生活を10年で辞めて、世界中の貴重な自然を訪ね歩く人生を選びました。そして、どこから読んでもワクワクゾクゾクするこの本を作ってくれました。

寺沢孝毅 文・写真 福音館書店 770円  (2021年 ’令和3年’ 7月21日 280回 杉原由美子)

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