チリとチリリ よるのおはなし
きりりとしたおかっぱ髪の二人組、チリとチリリはいつも自転車で出かけます。とある夕暮れ時、森の方から聞こえてくる祭り囃子に惹かれて出発します。
森の入り口で待ち受けていたのは黒猫のマスターが取り仕切るドリンクスタンド。変なもの飲まされないかなと心配になるのですが、チリとチリリは勧められた「おつきみドリンクくろぶどうなどなどスカッシュ」をあっさり飲み干し、おいしいおいしいとおかわりまでしました。
するとどうなったかというと、お耳が伸びてしっぽが生えて、暗闇でもよく見える目になったのです。さあたいへん、ではなくて、これ幸いと、猫たちが編んでくれた花の首飾りをかけてどんどん森の奥へ入って行きます。
そこは満月祭りの会場で、たくさんの猫が集まっていました。チリとチリリが首にかけた花の首飾りは入場パスポートであり、屋台にならぶ珍しい品物や食べ物と交換するチケットにもなるのでした。満月が中空にかかるころ、お祭りは最高潮に達します。首飾りの花は花火にもなる花火花だったので、最後はそれを線香花火にして、祭りは静かにおひらきとなりました。
読み終えてなんとなく何かのお話に似ている気がしていました。ひと晩たって、動物に勧められたものを疑うことなく口にするとか、動物限定のはずの集会の入場券を託されたとかいう点が宮澤賢治の「雪わたり」と同じであることに思い当たりました。
「雪わたり」については私の勝手な連想ですが、作者のどいかやさんが無類の生き物好きであることは間違いありません。かやさんは「ペットショップにいくまえに」というフリーペーパーの発行人で、最近は、眼もあいていない赤ちゃん捨て猫を保護して、里親さんにつなぐまでの経緯をフェイスブックにつづっておられました。
チリとチリリシリーズには、毎回テーマにふさわしい生き物たちが登場します。今回の「よるのおはなし」には猫ばかり。怖い妖しいイメージの猫をいっぱい登場させながら、細部まで何度も楽しみたい絵本に完成させているのは、生き物の温かみをよく知っている作家さんならではと思います。
どいかや 作 アリス館 1,320円 (2021年 ’令和3年’ 10月27日 283回 杉原由美子)