おだんごころころ
昔むかしあるところにひとりの娘がおりました。ある日、娘はおだんごを三つ作って山へしば刈りに行きました。ところが、お昼に食べようとしたおだんごがころころ転がってどこかへ行ってしまいます。二つ目まではあきらめましたが、三つ目のおだんごまでが手から放れて転がり出したので、娘は走って追いかけました。おだんごは、どんどんどんどん転がって、はるか山向こうの鬼の家に転がり込みました。
娘が辿り着くと、おだんごを食べながら出てきた鬼が「なんとうまいだんごだろう。もっと作ってくれ」と言うのです。
鬼たちは、かき回せばなんでも増産できる「鬼のおたま」を持っているのに、おいしいおだんごを作ることができないのです。そこで、おいしいおだんごを作れる娘をおびき寄せたのですが、賢い娘は隙をついて逃げ出します。うっかり「おたま」を手に持ったままで。そして、その「おたま」が娘の危機を救い、その後の人生も保証してくれたのでした。めでたしめでたし。
よくある昔ばなしの一つ、では済まされない、読後の爽快感がたまりませんでした。なぜか。私は二つの要因を考えました。
一つは、主人公の娘が、だれかの子、孫ではなく、結末に至ってもだれかの妻になるではなく、徹頭徹尾自立した存在として語られていること。
もう一つは、鬼たちの、便利な道具を持っているにも関わらず肝心の労働を人任せにしようとする生活能力の低さが露見していること。
それもそのはずで、本作品は、「女の子の昔話えほん」シリーズの5冊目で、どの作品においても、女の子の持つ潜在能力を大胆かつ小気味よく認識させてくれるのです。しかも原典が創作ではなく、昔話だという点にどうかご注目ください。昔から、女の子が活躍するお話が日本中、いえ、世界中にたくさんあることにも勇気づけられます。何年後かには、「女の子の」の冠が必要ない国になっていればもっといいのですけどね。
MICAOさんのメリハリのある刺繍絵がまた、力強く物語を盛り上げています。
中脇初枝 再話 MICAO 絵 偕成社 1,870円 (2022年 ’令和4年’ 3月16日 287回 杉原由美子)