オーリキュラと庭のはなし
仲間のサクラソウと一緒に農園のおじいさんに育てられ、美しい花をつけたオーリキュラは、ある春の日、町の花屋に飾られます。小鳥の声も聞こえない店の中よりは農園に帰りたいと思うオーリキュラでしたが、迎えにきたのはどこかのおばあさんでした。
家に帰ったおばあさんは、オーリキュラを鉢から出して、庭のリンゴの木の根元に植えました。
さっそく声をかけてきたのはイチゴでした。
「あなたはどんなくだものになるの?」
「私、くだものにはならないわ」
それでは、と聞いてくるのはパセリです。
「どんな料理になるの?」
そこへ「きっと香水よ」と口をはさむのはニオイスミレです。ローズマリーにいたっては「わかった、おくすりになるのね」と決めてかかります。
自分に無いものばかりを並べたてられて、すっかり気持ちがくじけてしまったオーリキュラは、精いっぱい意地をはってツンと空を見上げます。リンゴの木が「ほんとに、きれいな花だね」と声をかけてくれたのに、なにも答えられませんでした。
季節は巡って、やさしかったおばあさんは亡くなり、強い日差しと雨風からオーリキュラを守ってくれていたリンゴの木も朽ち果てます。美しくにぎやかだった庭は雑草におおわれ、取り残されたオーリキュラは、自分を気にかけてくれた人や生き物を今更のように懐かしむのでした。
伝えきれなかったことばと思いを込めて咲かせた最後の花は実を結んで種となり、種を散らしたあとのオーリキュラは土にかえったのでした。
次の春、かつて庭で遊んでいた孫が夫と子どもと共に帰ってきました。待っていたのは、庭いっぱいに咲くオーリキュラの花たちでした…。
可憐な花の生涯に、人生や自然界の機微をじんわりとしみ込ませてあります。日頃から身近な動植物を丁寧に観察されている作者ならではの作品だと思います。
私も毎年春になると、庭に花の種をまきます。無造作に雑草を引っこ抜きつつも、この絵本のオーリキュラのように、突然知らない土地に植えられる植物がふと気の毒に思えることがあります。ただ、庭に色とりどりの花が咲く頃、待ち兼ねたようにハチやチョウやトンボも集まってくれるので、やっぱりやめられません。どうか、みな仲良くしてくださいね。
前田まゆみ 作 アリス館 1,650円 (2022年 ’令和4年’ 4月24日 288回 杉原由美子)