おにろうのおつかい
おにろうは、鬼の子どもです。おにやんま3丁目に、お父さん、お母さん、赤ん坊の弟と一緒に暮らしています。おにろうのお気に入りはテレビで放映中の「オニガシマエース」です。強くてかっこいいからです。
私は、お話の世界といっても「テレビで人気の○○」が登場すると、彼らのエネルギーに弾き飛ばされそうで、そっと身を引いてしまいます。この絵本も一回読んで棚に戻して、元気満々の人が見つけてくれたらいいなと思っていました。
ところが、最近同じ作者コンビの「たこぼうのツーリング」(こどものとも年中向き11月号、福音館書店)を読んで、作品に共通する温かな思いに気づきました。それは、「お父さんの遊び心」。どちらの絵本でも、お父さんの得意技でもって、子どもがしみじみとした幸福感を得るのです。
おにろうのお話に戻ります。その日は、おにろうの誕生日。「なんでも好きなものを作ってあげる」と言うお母さんに、「からあげがいい!」と答えたら、「だったら、おにとかげを4匹買っておいで」と、おつかいに出されます。行き先は、いつもお母さんと行っている「おにやんまぎんざ」のお肉屋です。
タッタカターと、あっという間に到着したおにやんまぎんざには、溶岩を握った焼けドーナツ屋やマグマシェイクのスタンドなど、こわ面白い店がいっぱい。首尾よく冷凍おにとかげを4匹買ったものの、隣のおもちゃ屋にあったオニガシマエースのガチャガチャに夢中になってる間に、冷凍が解けて息を吹き返したおにとかげたちが逃げ出してしまいます。
「まてまてー!」おにとかげを追いかけて飛び込んだ先は、気難しい顔をしたおやじさんが店番している本屋でした…。
へとへとになって家に帰ったおにろうには、おにとかげのからあげのほかにも、うれしい誕生日プレゼントが用意されていました。実はそれは、お話の初めのころからもう描き込まれているのですけどね。
それともう一つ、いかつい鬼のお父さんが赤ん坊をおんぶして、お母さんと家事をシェアしている場面があって思わずにんまりしてしまいます。おにろうもきっと、気は優しくて力持ちの鬼さんに育って行くことでしょう。
尾崎玄一郎・尾崎由紀奈 作 偕成社 1,540円(2022年 ’令和4年’ 12月25日 296回 杉原由美子)