とんで やすんで かんがえて
注目されていたH3ロケットは飛びませんでした。残念ではありますが、自分自身を傷つけまいと今回は発進を見送ったと思えば、なんと賢いロケット、ということになります。
今回の絵本に出てくる鳥さんもそうなのです。まだ小さい鳥さんは、ちょっと飛んだら休みます。休んで木の実を食べて、また飛びます。そうやって少しずつ遠出をするうちに、とうとう地の果て、海岸に到達します。
「あっ、なんにもない!やすむところも きのみもない!」
ぼう然とする鳥さんでした。
ここから鳥さんの「かんがえて」が始まります。
海に橋が架かっていれば、とか、小さな島が飛び石みたいにつづいていれば、とか、水にもぐれれば、とかとか。
そして行き着いた結論は、大きくなったら今よりたくさん飛べるし、木の実を持って行くこともできるかもしれない、だから「それまでは もりにかえってあそんでいよっと それがいい それがいい」ということなのでした。
たかが小鳥の、幼稚な「かんがえ」ではないかと笑うなかれ。私は、読んで拍手を送りたい気持ちになりました。先を急ぐあまり、早まったことをしなくてよかった、と。
それというのも、昨年、子ども自身が自分の存在を否定する表現をくり返し、ついにこの世を去るという結末の絵本に出会ってびっくりしていたからです。私にしてみれば、身も蓋もないような内容としか思えませんでした。しかし、その絵本が読書推進を唱える団体から「若い人に贈る」本として推薦されたのです。これはショックでした。
だから、この鳥さんの絵本でとても救われました。そうだよ、生きていれば未来があるんだよ、と。
子どもでも大人でも「行き止まりにぶつかった」と感じたとき、鳥さんのように「やすんで かんがえて」みたらいいのではないでしょうか。いいことを思いつくまで、まずは深呼吸してみたら。
作者の五味太郎さんは、いつもくっきりとした色彩の絵とわかりやすい言葉で、納得の絵本世界をプレゼントしてくれます。
H3ロケットも、打ち上げスタッフの人たちにもう少し「かんがえて」ほしいと訴えているのだと思います。無事飛べるようになるまで、どうか手間ひまかけてやってください。
五味太郎 作 偕成社 1,430円(2023年 ’令和5年’ 2月26日 298回 杉原由美子)