とってもすてきなおうちです
冬の間、見かけなかった生き物たちが活動を始める春の庭先は、どこもかしこもすてきなおうちでいっぱいです。
「おや、よくいらっしゃいましたね。じまんのわがやへようこそ。」
表紙をめくると、さっそく歓迎のあいさつ。迎えてくれたのはだれかな? 表紙を見る限りでは、ネコさんかと思いますが、意外なことに、アリさんでした。
アリさんのおうちは、土の中。お部屋がたくさんあって、社長室、じゃなかった、女王室を中心に保育室や食料貯蔵室や休憩室が完備している豪邸なのです。弱点は、大きな動物に掘り返されること。でも、めげずに大勢の家族の力で再建します。
地上にもすてきなおうちはたくさんあります。自分で作らずに、ちゃっかり間借りするのはチョウチョウさん。みずみずしいキャベツの葉っぱに産み付けられた卵からは、おなじみのアオムシくんが誕生し、おうちでもあるキャベツをむしゃむしゃ食べて育ちます。なるほど、これは賢いですね。
チョウチョウさんにとって気をつけないといけないのは、ひっそりと網を張っているクモさん。えさもたっぷりだし、見た目にも美しいおうちでしょうと自信満々のクモさんなんですけど、トリさんには見つかりたくない…。
そこへ、ヒラリと舞い降りてきたのは、ツバメです。去年と同じ場所に巣を作れるか、偵察にきたのです。ツバメたちのすてきなおうち、無事にできあがるといいですけど、ネコさんの動向がちょっと心配。
どこにでもある家の庭を舞台に、生き物たちの幸せに気づかせてくれる絵本です。つまり、人間として反省すべき点にも気づくというか。私には身に覚えがあります。草むしりを熱心にやりすぎてアリさんの巣をほじくり返したとか、キャベツについた卵や虫さんをぷちっと潰したとか、クモさんの巣をうっかり破ったとか…。どうか許してください。
せめて自分ができることとして、除草剤なるものは使っていません。日曜日ごとに雨が降った年は、庭中が草ぼうぼうになってしまうのですけど。「そのほうが住み心地がいいわ」って言ってくれる生き物も、きっといますよね。
なかがわちひろ 文 高橋和枝 絵 アリス館 1,650円(2023年 ’令和5年’ 4月23日 300回 杉原由美子)