ぼくは、ういてる。

 主人公の一平くんは、前作『すてきなひとりぼっち』で、ひとりでいるときのすがすがしい気持ちを自分の中に住まわせるようになりました。自分を外から眺めることができるようになったんです。
 そうしてわかったことが、「ぼくは、ういてる。」でした。一平くんによると、他の人より20㌢から30㌢はういています。それだけういてると、見えないはずのものも見えます。校長先生の頭に止まったトンボとか、棚の上のお菓子の箱とか。でも、ういてるとたいてい叱られたり笑われたりするので、なるべくうかないように用心していたのでした。だから、ういてる友だちを見つけたときは驚きました。
 ういてるクラスメイトは山田ほのかさんです。ほのかさんのほうでは、一平くんがういてることをとっくに知っていました。しかも、ほのかさんは自分がうくことをポジティブに捉えていました。「わたし、時どきわざとうくんだよ。だって、つかれちゃうんだもん。ういてるときって、胸の中にふうせんがあるみたい」
 「えーっと、そうだね」一平くんは、ドギマギしながらもその新鮮な発想に深い共感を覚えるのでした。ういてるときの自分にオロオロしていた一平くんでしたが、「わたしのふうせんは水色。一平くんのは?」とたずねられて「ピンクかな、たぶん」と答えたとき、確かに何かがふっ切れました。
 翌朝、ういてるのも悪くないと、足取り軽く学校へ向かった一平くんでしたが、ほのかさんのようすがおかしい。ういてるどころか、しずんでる。胸の中のふうせんはどうしたの?
 ほのかさんは、ペットのハムスターが死んだのは自分の不注意のせいだと落ち込んでいたのでした。慰める言葉も見つからない一平くん。図らずも事態を好転させたのは校長先生でした…。
 前作同様に、作者のなかがわちひろさんが全ページにさし絵を描いています。各登場人物には、くっきりとした輪郭に最小限かつ効果的な彩色がほどこされ、一平くんの独り言と会話の部分は、文字の大きさと配置の工夫ですっきり区別されています。おかげで、お話にどんどん入り込んでいけます。
 自分は今ういてるかもと気づいた時、胸の中にふうせんのタネが生まれているのです。人間、少しういてる位がちょうどいいのではないでしょうか。私はせっせとふうせんのタネを探すことにします。

なかがわちひろ 作 のら書店 1,650円(2024年 ’令和6年’ 2月25日 310回 杉原由美子)

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