月刊絵本こどものとも あれこれ

本屋、とりわけ子どもの本を中心に扱う本屋にとって、月刊絵本「こどものとも」の出来具合は気にかかります。「こどものとも」がピンと来なくても、『ぐりとぐら』『だるまちゃんとてんぐちゃん』『しょうぼうじどうしゃじぷた』などのタイトルは多くの人の記憶にあるでしょう。どれもみな、もともと月刊絵本「こどものとも」だったのです。1956年4月創刊、最新の2026年2月号「ゆきのはたけのおてつだい」は839号を数え、次号でめでたく満70歳になります。
創刊当時、版元の福音館書店は、経営難に苦しんでいました。しかし、この「こどものとも」創刊号から11号までが第4回産経児童出版文化賞を受賞したことで世間の耳目を集め、会社存亡の危機を脱することができたのです。勢いに乗った編集長の松居直は、鋭い感性で、高名な作家から無名の新人までを発掘、多彩かつ、信念を貫いた作品を世に問い続けました。ここから、長新太、五味太郎、安野光雅、林明子、堀内誠一、赤羽末吉など、日本の絵本界になくてはならない人材を数多く輩出しました。
私は1955年生まれですが、幼児期に「こどものとも」とは出会っていません。大学生になって雑誌「日本児童文学」や「月刊絵本」などで、「こどものとも」の存在を知りました。でも、当時は幼稚園・保育所限定販売だったので、本屋で実物は見られません。奇跡的に対面できたのは、商店街の本屋ではなく、ちょっと町外れにあった富山書店さんでした。どういうルートで入荷していたのか未だに謎なのですが、薄暗い(失礼)富山書店さんの棚の隅っこにずら~っと並んでいたのです。「これがかの有名なこどものとも!」と、私は片っ端から手に取って読みふけりました。さぞ迷惑な客だったことでしょう。
だれにも言えませんでしたが、第一志望の就職先は福音館書店でした。インターネットなどない時代、時間もお金も余裕がないので、電話だけ、してみたら、「今年は採用予定がありません」という簡単なお返事でした。そういえば、入学直後に起きたオイルショックで、日本中の企業が新規採用を減らしていた時期でした。それでも、本を作る仕事をと、地元の巧玄出版に就職できたものの、同社はほどなく倒産。本を販売する仕事に方向転換して、夫と共に「こどものとも」の販売代理店を始めたのが1981年でした。
そのころ、福音館書店は、「絵本といえば福音館」といわれるくらいの、絵本出版大手に成長していました。大きな手と小さな手を合わせたシンボルマークを外壁に掲げた5階建ての自社ビルを文京区に建てたのは1984年です。私たちも店舗を開くことになり、おもちゃの買い付けのために上京した折り、新社屋内を見学させてもらったこともありました。福音館書店と当店の蜜月時代だったといえます。少なくとも、私はそう思っていましたが、販売代理店といっても孫請けという弱い立場だったため、短期間であっけなく縁切れとなりました。
それでも、当店から「こどものとも」を購読してくださっていた幼稚園・保育所がありますから、簡単にやめるわけにはいきません。ダメ元で交渉に行ったのが、金沢市にある書籍取次店日販北陸支店でした。「こどものともの定期購読が1500冊あります」それが決め手になって日販とつながり、今に至っています。「こどものとも」が、社会的要請に応えて幼稚園・保育所限定販売でなくなっていたことが幸いしたのです。外商主体の「こどものとも」販売代理店が店舗として始めた「プー横丁」が、一般書籍や雑誌、図書カードも扱っているのは、日販と直取引ができるようになったからです。
一方、福音館書店の自社ビルはどうなったのか。福音館書店は2025年12月15日から中野区の某ビル2階に居を移しました。億ションから賃貸アパートに引っ越すような変化に、他人事ながら心震えます。毎月届く販売資料を見る限り「こどものとも」はこれまでと変わりなく製作・販売されるようなのですが。
ところが、追い打ちをかけるように、年末12月26日に1枚のFAX紙が入ってきて、「こどものとも」関係の6誌と「たくさんのふしぎ」を春から値上げするとのこと。当店では、少し前に「こどものともを予約します。前払いで」というお客さまがあったばかりでした。そのかたは、4月号からの分も払っていくと言われたのでしたが、「値上がりするかもしれないので」と、3月号までの分だけをいただいたのでした。私は、値上がりを予想していたわけでなく、まさかの場合に備えただけでした。それなのに…。
絶大な信頼を得ていた「こどものとも」が荒波にもまれています。福音館書店の編集長、社長、会長、相談役を歴任して2022年に亡くなった松居直さんは、「こどものとも」の販売者に「絵本は消費財ではなく、文化財です」と言い聞かせておられました。私にとって、忘れることのできないたいせつな文言です。子どもたちに手渡すものは、なんであれ、誠実に作られていなければならないと思います。
願わくは、荒波にのみ込まれることなく、読み手である子どもたちが心躍らせる「こどものとも」が、今後もたくさん生まれてきますように。
(2026年 ’令和8年’ 2月4日 320回 杉原由美子 )

